迷子のシンデレラ

「じゃ逃げるのは諦めなさい。
 それでまずは僕の部屋へ来て、僕のことを周平って呼ぶ練習と敬語をやめる練習。
 あとは僕に可愛く甘えること」

 悪戯っぽい笑みを向ける葉山は次から次へ智美へ指令を与えた。
 智美はとにかく冷静にならなければと口を開いた。

「まずは琉依くんのお昼寝をさせないと」

「琉依のことばかり優先させられると少し妬けてしまうな」

 そう言いつつも車から先に降りた葉山は琉依を抱き上げて隣に並ぶ智美の手を握った。

「あ、あの。琉依くん片手の抱っこじゃ危ないです」

「なら、智美から腕を組んでくれる?
 今は片時も離れたくないんだ」

「さすがに今は逃げないですよ」

「そう?」

 琉依を抱き直した腕を曲げて智美の前へ突き出した。
 その様がおかしいやら照れるやらで困ってしまう。

 そっと手を添えるとずんずん進んでいく葉山に遅れを取らないように早足でついていく。

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