迷子のシンデレラ
胸がいっぱいになっていると顔だけ覗かせた葉山が「ミルクあげるんだよね?」と智美に確認した。
「はい。準備しますね」
母の顔を取り戻した智美は葉山の元へ歩み寄った。
部屋の奥へ来て驚いた。
ベビーベッドが用意してあって、そこに琉依が寝かされていた。
広めとは言え、ワンルームの部屋に置かれたベビーベッドは存在感を放っている。
並べて置かれた大人用のベッドやその他の家具ともどこか似つかわしくない。
「驚いた?
急遽、用意したんだよ。
琉依を床に転がしておくわけにもいかないだろう?」
「本当に家族に、なろうとしてくれているんですね」
「冗談だと思った?」
「そういうわけじゃないんですけど……」
ミルクを用意しながら智美は言葉を濁す。
「まだ逃げようとしてる?」
「そうじゃありません」
断言する智美へ葉山は優しい眼差しを向けて言った。
「僕は一刻も早く一緒に住みたいけどね。
今の仕事をどうするのか、決めてから引っ越せばいいから」