迷子のシンデレラ

 葉山にアパートまで送ってもらい、彼が名残惜しみつつ帰っていくと智美は恵麻へ連絡した。

『智美!
 連絡が来たってことは、とうとう王子様に巡り会えたってわけね』

 全てを知っているであろう恵麻は嬉しそうに開口一番そう言った。

『色々とご迷惑をお掛けしました』

 見えない恵麻に深々と頭を下げる。

『何を言ってるのよ。水臭い。
 これで、良かったのよね?』

 結果的に葉山と会うことになったのは恵麻が彼へ智美のことを教えたからだ。
 智美の為を思ってした行動だが、智美の人生を大きく変えることになる。

『うん。良かったんだと思う』

 この1年過ごしてきたことを思い出すと感慨深い気持ちになり、二人の間に心地よい沈黙が流れた。

 葉山の子どもを妊娠したこと。
 それを彼に告げずに彼の前から姿を消すこと。

 批判されてもおかしくない行動に恵麻は何も言わず手を貸してくれた。
 誰よりも智美のことを考えて。

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