迷子のシンデレラ
「智美」
小さな、けれど確かに聞こえた声に胸の高鳴りを覚えつつドアを開けた。
ドアを開けた先には大きな体をバツが悪そうに小さくさせた彼。
「迷子の子猫ちゃんから電話が来て」
迷子の子猫……。
ううん。今は迷子じゃない。
ただ一人の人に心囚われているから。
「僕のところへおいでって言えたら格好もついたんだけど……。
高速通勤になっても仕事はしっかりするって約束するから。
転がり込んでも構わないかな」
遠慮気味にそう言う彼に胸がいっぱいになって言葉を詰まらせていると、ぐずくず泣いている腕の中の琉依が手を伸ばした。
それは未だ外に立つ、葉山へ向けて。
「琉依くん……」
胸が熱くなって頬を涙が伝う。
葉山は智美から琉依を受け取ってアパートの中へと入った。
「琉依に背中を押されたね。
さすが、僕たちのキューピットだ」
微笑んだ彼は琉依を抱っこしたまま体を屈めて智美へキスをした。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
これから何十年も交わすことになる挨拶を口にして、もう一度キスを。