迷子のシンデレラ
智美は恵麻の父の会社である朝岡物産に勤めていた。
総務課で経理を担当しており、恵麻ともそこで知り合ったのだ。
昔の恵麻は社長令嬢という立場を気にしていて、腫れ物に触るような周りの対応に悲しんでいるようだった。
智美も恵麻は別世界の人だからと当初は遠巻きに付かず離れずの関係を続けていた。
その関係が変わったのはトイレで涙している彼女とばったり鉢合わせしてしまった時。
恵麻は慌てて涙を隠したが、見ていられなくてハンカチを差し出した。
目を丸くした彼女はバツが悪そうに「ありがとう」と小さくお礼を口にした。
そして……。
「あの、アレ。貸してくれない?」
消え入る声に心の中で驚きつつも、すぐさま快諾してトイレに常備してあるナプキンを2、3渡した。
「返してくれなくていいわ。
こういう時はお互い様よ。
今、使わない分はポケットに入れておいて次のお手洗いで使って」
顔を真っ赤にさせていた恵麻が「ありがとう」と告げてすぐさま個室へ舞い戻った。
智美も個室に入り、再び鉢合わせになって彼女が気まずくならないように時間を置いて個室を出ると洗面台の前で彼女は待っていた。