迷子のシンデレラ

「ごめん。智美」

「え?」

 眉尻を下げた恵麻が謝罪を口にする。

「まさか智美がって思わなかったから、言っておかなくて……。
 王子の毒牙にかかるだなんて」

「え……」

『王子』というフレーズに体を固くする。

「智美は男性に興味を示さなかったから知らないだろうけど、そもそも葉山商事の御曹司、葉山周平は世が世なら本物の王子だったのよ。
 今だってこの辺り一帯の大地主ですごい権力の持ち主だわ」

「そう、なんだ……」

 もしも彼が本当にあの夜の彼だったとしても、例えそうでないとしても。
 あの仮面舞踏会に参加出来ている時点で富裕層の人に違いないわけで、雲の上の存在だということは分かりきっていた。

「私は智美にもっと人生を楽しんでもいいんじゃないかって……余計なお世話をしたのかもしれない」

「余計なお世話って?」

 彼に「あの夜の女はこの榎下智美です!」と、明かしてしまったのかと不安が加速して、心臓もドキドキと鼓動を早める。
 しかし恵麻が話すのはそれとは全く違う内容だった。

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