迷子のシンデレラ

「あの日の彼が王子だとは……」

 仮面をつけた素性不明な舞踏会。
 あれは夢だと言われた方がしっくりくるほど不鮮明でまるで蜃気楼の中にいたのではないかと思える。

 ただ、彼の瞳が……。
 エメラルドグリーンの双眼を思い出すと胸が軋むように痛くなった。

「智美も気づいてるのでしょう?
 あの瞳の持ち主はなかなかいないの」

「そう……」

 智美の前に現れたのは堅いスーツを着た隙のないイケメン営業マン。

 それどその瞳は、マスクから覗く妖艶に瞬いた瞳を思わせる。
 忘れたくとも忘れられないあのエメラルドグリーン。

 智美自身も感じたことを指摘されて認めなければならないだろう。

 葉山は、きっとあの日の彼なのだと。


< 40 / 193 >

この作品をシェア

pagetop