迷子のシンデレラ

「待って。僕が用事のある人は榎下さんだ」

 私……。
 どうして?

 まさかあの夜のこと……。

 頭が真っ白になって誤魔化す言葉が見つからない。

 あの夜は魔法をかけてもらった。
 今の智美を見て、あの夜のシャーロットだと結びつくわけがない。

 普段、清潔感こそ大事にしていたけれど、薄化粧で地味に地味にひっそりと生きている。

 髪型だって短いボブを下ろしているだけ。
 まさか結い上げていたシャーロットがこんなに短い髪だなんて男の人には信じられないだろう。

 頭の中はバレるはずがないという考えが巡るばかりで、言い訳は一つも思い浮かばない。

 焦る智美に葉山はクスリと笑ってみせた。

「そんなに警戒しないで。
 内村から「朝岡物産の智美ちゃん」ってずっと話を聞いていたから、一度、話してみたかったんだ」

『朝岡物産の智美ちゃん』として……。

 僅かに安堵しつつも、こちらは彼とお近づきになりたくない。

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