迷子のシンデレラ

「大衆居酒屋にしませんか?」

「大衆?
 それならせめてバーにしない?」

 生粋のお坊ちゃまだなぁと感心しつつ、異を唱える。

「夕食はしっかり食べたいですし、葉山さんがオススメしてくれるところは高くて支払えないので大衆居酒屋で」

 葉山は困ったような、楽しそうとも取れる顔で意見する。

「支払いは気にしないで。
 智美ちゃんに出させたとなると僕が内村課長に叱られるから」

 少しオフモードになってきたのか、自分の職場の人を課長呼びした。
 普段の彼を見ているようで、それがどこか嬉しい。

「お会いしたことなかったのに、私のこと内村課長と一緒に陰で『智美ちゃん』呼びしてました?
 呼び方が自然過ぎます」

「ハハッ。なんでもお見通しかな。
 受け付けでもつい呼んじゃって、睨まれた時は肝を冷やしたよ」

「睨んでません!」

「そう?
 何こいつっていうのが顔に出てた」

「それは……否定しませんけど」

 ハハハッと笑う彼が足を止めた。


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