迷子のシンデレラ
「本当にこういうところでいいの?
内村課長とよく入る居酒屋なんだけど」
暖簾がかかる扉。
外にも貼り出されたメニュー看板。
値段も書かれており価格は良心的だ。
「はい。もちろんです。
葉山さんがよく入るというのが意外ですが」
「僕は毎日フォアグラにキャビアでも食べてると思った?
僕に言わせれば女性はみんな夜景が綺麗でイタリアンかフレンチ、あとはミシュランに載ってるお店じゃなきゃ嫌なのかと思ってたよ」
彼は整った顔立ちの口元に薄い笑みを作る。
視線は智美と同じメニュー看板へ向けている。
「居酒屋は以ての外?」
「そうそう」
それはきっと彼の周りの女性がそうなのだろう。
智美は彼の知る女性のようには逆立ちしてもなれないし、なるつもりもない。
ただ、今は楽しい時間が過ごせればいい。
緊張して過ごすより少しでもリラックスして過ごしたかった。
「お腹空きました。
話は中でしましょう」
「そうだね」
傍から見ると葉山の上品な風貌からは場違いな居酒屋へ。
智美からすると、しっくりくる居酒屋へ。
扉を開けて足を踏み入れた。