迷子のシンデレラ
ジャケットのボタンを外し、ネクタイに手をかけて緩めている。
隙のないかっちりとしたスーツ姿から、僅かに漏れ出る色気がどうにもいやらしい。
その、やけに色っぽい姿があの日の妖艶な彼とシンクロする。
けれど大胆に迫ってきたあの日とは違い、彼は少年のような顔でジャケットをマントのごとく舞わせて先を歩いて行ってしまう。
「あの! 待ってください!
酔ってますよね?」
「いや。残念ながらそこまでは」
どう残念なのか、どう見ても少し陽気な彼は酔っているように見える。
「払いたいっていうなら、今度智美ちゃんがご馳走してよ。
それで、ほら。次に会える口実」
こんなもの遊び慣れた彼の常套句だろう。
それなのに喜びそうになった自分が恨めしい。
「いいえ。絶対に今日、払います」
「頑固だな。頑固者はモテないよ。
僕みたいに」
そう言って彼は笑う。
「望むところです」
智美の応戦に葉山は目を丸くした。
「やっぱり智美ちゃんいいね。
次に絶対、繋げるから」
ポケットから携帯を取り出すと智美へ向けた。
「連絡先、交換しよう」