迷子のシンデレラ

「いい奴だったでしょう?
 期待の若手」

 敢えて周りに葉山だと分からないように話題を振る内村課長に頭が下がる。
 彼とお近づきになったと他の女性社員に知れたらただじゃ済まされない。

「そうですね。
 さすが内村課長の秘蔵っ子ですね」

「元がいいからなぁ。彼は」

 それは葉山商事の御曹司なのだから、幼少期から英才教育を受けていてもおかしくないだろう。

 けれど……。

「内村課長。
 せっかくですが、彼は彼の立場に見合う方がいらっしゃいますよ。
 私では不釣り合いですから」

 精一杯の微笑みを向ける智美へ「彼みたいな奴には智美ちゃんのような子が必要なんだよ」と呑気で無責任なことを憎めない笑顔とともに残して打ち合わせへと姿を消した。

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