迷子のシンデレラ

 葉山が会社へ姿を見せてから社内では彼の噂話が続いている。

 それはどれも将来有望だとかそんな話。
 そして、最後は自分達には手が届かない雲の上の存在だという結論に着地する。

 何人もの婚約者候補がいて、どの人も彼にふさわしい素晴らしいお嬢様だ。
 智美にしてみても、どれもこれも自分には縁のない遠い雲の上の話だった。

 内村課長に勧められたから義理立てて食事へ行っただけ。
 昨日の食事も仮面舞踏会の夢のおまけのようなものだ。

 そう心に言い聞かせた。
 その証拠に交換した連絡先にはなんの音沙汰もなかった。

 それから内村課長の代わりに葉山が来ることもなく、平穏な日々が続いた。

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