胎動
「そんなのただ妊娠しただけでしょ?」


横からそう言ったのは梓だった。


好奇心をむき出しにしている夕夏に呆れ顔だ。


「そう思うでしょ? だけどこの子彼氏がいないの!」


夕夏の言葉に梓はため息を吐き出している。


彼氏がいなくなって妊娠するときもある。


そう言いたいのだろう。


けれどあたしは画面にすいよせられていた。


女の子のお腹がどんどん大きく膨らんでいくのが見えた。


ほんの少しの膨らみが1秒ごとに大きくなっていくのだ。


そのお腹がパンパンに膨れ上がった次の瞬間皮膚がはじけ飛び、中から小さな手が現れた。


人間のものとは思えないほど黒く、細長い指先が腹部を押し広げている。


その奥から血と胎盤が絡まった丸い頭部が現れた。


ドロリとした液体が女の子の足元に広がって行く。
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