胎動
街は動き出したばかりで行きかう人は少ない。


あたしと同じパジャマ姿の人がゴミ出しをしているのが見える。


しかし、どこを見回してみてもソレの姿はなかった。


「落ち着いて探さないと……」


そう呟いてみても、落ち着く事なんてできなかった。


わが子が行方不明になったのだ。


こんな状況で落ち着ける人なんて、きっといない。


名前を呼んで探したくても、あの子には名前もないのだ。


悔しくて、キツク奥歯を噛みしめた。


誰かに相談したくても、姿を見ることができないのだから、相談もできるハズがなかった。


「何してんだ! 早く飯を作れ!」


玄関先から叔父の怒鳴り声が聞こえてきて、あたしは後ろ髪を引かれる思いで家へと戻ったのだった。
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