胎動
「どうしてこんなことをするの? あたしはあなたを産んで育ててあげたのに……」


暗闇の中、ゴトッと物音が聞こえてきて身構えた。


音のする方向へ視線を向ける。


暗闇に馴れて来た目が捕らえたのは、床に転がるゴミ箱だった。


ゴミ箱が自然に倒れるはずない……。


心臓が早鐘を打ち始めた。


やっぱり近くにソレがいるんだ。


「お母さんをからかって遊ばないで」


強い口調でそう言った。


ソレは物に触れることもできれば、すり抜けることもできる。


姿が見えないのをいいことに、遊んでいるようにしか感じられなかった。


ゴミ箱を起こそうと立ち上がったとき、今度は逆側にある窓をコンコンと叩かれる音がした。
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