胎動
マイナスなことは誰も一言も言わなかった。


それを言ってしまうとまた悪魔に力を与えてしまうからだ。


「そういえば昨日のお笑い番組見た?」


あたしは思い出してそう言った。


笑い声の数だけ、黒い雲が遠ざかって行く。


山の中に、大げさなくらい響き渡る4人分の笑い声。


山頂からソレの悲鳴が聞こえて来た。


一瞬、振り返ってしまいそうになったけれど、グッと我慢した。


あたしはもう振り向かない。


もう1度この山に来るときは、きっと楽しい気分のときだ。


くぐってきたフェンスを抜けた時には、雲はすっかり晴れていた。


山を見上げてみるといつもよりも輝いて綺麗に見える。
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