胎動
え……?


理解する暇もなく、梓の血肉が飛んでくる。


生暖かくてヌルヌルとした液体が体中にかかった。


え、なに?


なんで?


頭上に黒い雲が戻って来て、今度は街全体を包み込んだ。


ガリガリと音がして梓の体が何もない空間へと消えて行くのを見た。


「あ……」


青い顔をした照平が山へ視線を向ける。


釣られるように視線を向けたその先には……山全体から黒い煙が立ち上っていた。


それは角を生やして牙を持ち、今にも食らいついてきそうだ。


「遅かったんだ……。恐怖心の塊は、もう山をも包み込んでたんだ……」


照平が震えながら言う。
< 230 / 231 >

この作品をシェア

pagetop