胎動
周りに広がる田畑に人の姿はない。


ポツポツと見える民家には光が灯っていた。


ほとんど街灯も立っていないし、真っ暗になってしまうまで時間はかからないだろう。


「帰らないと」


聞こえて来た声へ向けて言う。


「大丈夫。こっちへおいで」


その声は風に乗って聞こえてきているのか、どこから聞こえて来るのか見当もつかなかった。


ただ優しくて。


全身を包み込んでくれるような声。


あたしの吐き気はいつの間にか消え去っていた。
< 29 / 231 >

この作品をシェア

pagetop