胎動
「そこはどこ?」


涙を押し込み、声に訊ねる。


「わかってるはずだよね?」


含み笑いを交えた声。


わからない。


そう言いたかったけれど、あたしは悪魔山へ視線を向けていた。


最初からわかってた。


この声は山から聞こえてきていると。


ただ、あたしはそれを拒絶していただけだ。


「おいで」


「おいで」


「こっちへおいで」


あちこちから聞こえてくる声が頭の中で響き渡る。
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