胎動
こんなに、なんでもないように嘘がつけるなんて思っていなかった。


「さっさと帰って家のことをしなさい!」


叔母さんはそう怒鳴ると、一方的に電話は切られた。


あたしはスマホを見つめてしばらく棒立ちになってしまった。


「友里、誰からの電話? 大丈夫?」


梓にそう声をかけられて、ハッと我に返った。


「大丈夫。家に戻らなきゃ」


「そっか……」


梓はまだ心配そうな顔を向けているけれど、あたしが棒立ちになっていたのは怒鳴られたからじゃない。


反発をあらわにした自分自身に驚いていたからだ。


あたしはぼんやりとした気分のまま、家へと歩き出したのだった。

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