胎動
この鎖の中央に祠があったのに……。


あたしは視線を広間へと戻す。


何度見ても、そこにはなにもない空間が広がるばかりだった。


でも、確かに感じていた。


あの時声を聞いたのと同じように、強い視線を感じる。


振り向いても、周囲を確認しても誰もいないけれど、あたしは確かに見られている。


「いるんでしょ!?」


誰もいない空間へ向けてそう叫んだ。


風がやみ、鳥や小動物の声も聞こえない。


異様なまでの静けさが周囲を包み込んでいた。


自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえて来る。


「あたしのことを見てるんでしょ!?」


もう1度叫んだ。


しかし返事はない。
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