キミガ ウソヲ ツイタ
裕福な家庭に育ってなんでも与えられることが当たり前だった二人の生活は、最初のうちこそうまくいかないことだらけだったようだけど、『ずっと想い続けた愛する人との暮らしは、貧しいなりに楽しいものだった』と書かれていた。

父との離婚から半年が経ち、母は北村さんと再婚した。

庶民の暮らしにも少しずつ慣れて人並みの生活力が身についてくると子どもが欲しいと望んだけれど、母は俺を産んだあとに卵巣の病を患って妊娠しにくい体になってしまったらしく、結局その願いは叶わなかったそうだ。

母はずっと、父と離婚するときに唯一持ち出した俺の写真をとても大切にしていて、毎年4月9日になると『志岐は今日で◯歳になるのね。元気かしら。きっと立派になっているわね』と言っていたらしい。

そんなことはまったく知らず、捨てられるような形で突然母を失った俺にとって、この手紙に綴られた事実はかなり衝撃的だった。

そして手紙の最後の1枚には、さらに衝撃的な事実が綴られていた。

3か月ほど前、母は『もう一度だけでいいから志岐に会いたかった』と言い残して、卵巣ガンで亡くなったのだそうだ。

北村さんは母のその願いを叶えてあげたいと思っていたそうだけど、母は『二度と志岐とは関わらないという約束を破ることはできない』と言ったらしい。

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