キミガ ウソヲ ツイタ
手紙を読み終え、飲みそびれてすっかりぬるくなったビールを飲み込むと、鼻の奥がツンと痛くなって、便箋に並んだ文字がぼんやりとにじんで見えた。

そんなに会いたいと思ってくれていたなら、父との約束なんか気にせず会いに来てくれたら良かったんだ。

せめていまわの際に間に合えば何か一言でも言葉を交わせたかも知れないのに、亡くなってから知らされてもそれも叶わない。

「そっか……もう二度と会えないんだな……」

17年ほども前に別れてから一度も会っていなかったし、祖母からも母の話は一切聞かされていなかったのだから、今さらという気がしなくもない。

その間も俺のことをずっと大事に思っていてくれたことは嬉しかったけれど、きっとどこかで幸せに暮らしているのだろうと思っていた分だけ、母が俺の知らないうちにすでに帰らぬ人になってしまっていたことは悲しかった。

手紙をテーブルの上に置いてぼんやりと天井を見上げていると、風呂から上がってきた葉月が怪訝な顔をして俺の隣に座った。

「志岐、ボーッとして、どうかしたん?」

「うん……手紙、読んだんだけどさ……内容があんまり衝撃的過ぎて、ちょっとまだ受け止めきれてないって言うか……」

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