キミガ ウソヲ ツイタ
体調が悪くても自分の世話は自分でする葉月があんなにしんどそうにしているなんて、よほど疲れが溜まっているんだろう。

結婚式が済んでホッとしたところに、俺の秘書課への異動と葉月自身の昇進も重なったのだから、疲れるのは無理もない。

胃の調子が悪いのも仕事で気疲れしているせいかも知れないから、近いうちに温泉にでも連れて行ってゆっくり休ませてやりたいな。

もし明日も葉月の体調がすぐれないようなら、墓参りは一人で行った方が良さそうだ。


翌日の4月9日 、俺は30歳の誕生日を迎えた。

昨日までは二十代だったのに、今日から三十代なのだと思うと不思議な気分だ。

昨日はかなりしんどそうにしていたから心配していたけど、葉月は朝になると昨日より顔色も良くなって、今日は体調もずいぶん良さそうに見える。

年度始めから有休を申請していた俺と葉月は、北村さんの手紙に書かれていた母が眠っていると言う霊園を訪れた。

車で2時間ほどの小高い丘の上にあるその霊園は、たくさんの桜の木が植えられ、満開を過ぎて舞い散る桜の花びらが淡いピンクの絨毯のように足元を埋め尽くしていた。

母の墓前にはまだ新しい花が供えられている。

亡くなっても母に会いに来てくれる人がいることに少しホッとした。

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