キミガ ウソヲ ツイタ
「かわいいな、葉月。俺もうヤバイ……」

葉月の肩に額を乗せて耳元で囁くと、葉月は唇から吐息混じりの小さな声をもらしながらうなずく。

もう少しゆっくりじっくり焦らしてやろうと思ったけれど、俺の方がもう限界みたいだ。

「マジでヤバイ……。完全にのぼせた……」

「えっ?!ヤバイってそっちか!」

「とりあえず俺は先に上がるから、続きは葉月が風呂から上がったあとで」

「カッコ悪……。あんたホンマにアホやな……」

かなり惜しい状況ではあったけど、ここでぶっ倒れてしまってはどうしようもないので、少しふらつきながら浴室を出た。

濡れた頭や体を拭いて部屋着に着替え、リビングのソファーで冷たい水を飲みながらぼんやりしていると、また子どもの頃のことや母のことを思い出した。

俺の遠い記憶の中の母は、二つの顔を持っている。

壊れてしまいそうなほど儚げで寂しげな顔と、あやしげな笑みを浮かべる華やかな女の顔だ。



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