かりそめ婚!?~俺様御曹司の溺愛が止まりません
驚いて顔を上げたところに、沙之くんがゆっくりと上半身を寄せてきた。

私の両頬に手を添えて、顔の距離を近づける。異常なくらい、近くに。

「さ、沙之くん……」

「動かないで瑠莉ちゃん、目を閉じて」

沙之くんの大きな瞳と長い睫毛が、うっとりと閉じられる。

兄弟だけあってふたりの顔立ちはよく似ている。男らしい颯志くんに比べて、まだ若い沙之くんはどこか女性的で綺麗な印象だ。

けれど、目をつむった姿は、昔の颯志くん――ちょうど私が振られてしまった頃の、社会人になりたての彼にそっくりで――。

……ううん、違うよ。これは颯志くんじゃない。

動揺を振り切って逃げ出そうとしたものの、身動きを取ることもできなくて、うしろへ身を引きながら困惑する。
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