かりそめ婚!?~俺様御曹司の溺愛が止まりません
俺の言葉に、顔を上げた彼女は、瞳を赤く潤ませていた。やがてぽろぽろと涙がこぼれ落ちてくる。

勘弁してくれよ……。

彼女を抱き寄せようとして――やめた。瑠莉に見られたくなかったし、もう彼女に俺の慰めは必要ないだろう。

「慰めないからな」

「うん。わかってる。ありがとう。そう言ってくれただけで、随分スッキリしたから」

彼女は手の甲でゴシッと涙を拭くと、無理やり口角を引き上げ、いつもの笑顔を作ってくれた。

強い女性だ。だから、当時の俺は惹かれたんだろう。

「……まったく。そのくらいでわざわざこんな場所まで押しかけるなよ。だいたい、誰に聞いたんだ、ここにいるって」

「場所は、沙之くんが教えてくれて――」

「――沙之?」

弟の名前を聞いて、ハッとした。沙之がこの場所を知っていた――おそらく母に聞いたのだろうが、その意味するところとは。
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