マイ・ディア・タイガー
虎頭先輩と一緒に帰るようになって半年程。
私は前より先輩に対して緊張は少なくなったし、怖いという気持ちも薄れた。
部活の事ばかりだった下校中も、今ではくだらない事を話して笑ったり、冗談を言ったりするまでに関係性も良い意味でくだけてきた。
「先輩、水高に推薦で受かるって事は、内申はどれくらいなんですか?」
「4.8」
「4.8!?高!」
水高の推薦を受験するなら内申評定が4.0以上必要で、4.5あればまあ大丈夫だとクラスの男子が言っていたっけ。
4.8もあれば余裕だ。そりゃあ受かるに決まってる。
成績いいんだろうなあと思ってはいたが、そこまで良いとは。部活ばっかりやっていて、なんでそんなに勉強もできるのだろう。
「いいなあ、水高。めちゃくちゃ進学校ですよね。羨ましいです。私も行きたい」
「…水高って男子校なんだけど」
「え!?うそ、そうなんですか!?」
「あほ」
「う、恥ずかかしすぎます…」
隣で先輩が「ふっ」と笑うのが聞こえて、何と表現したらいいのかわからないが、心臓の奥がじわじわと暖かくなった気がした。
「四條は高校どこ行きたいか決めてんの?」
「いや、私は行ければどこでも…できるだけ進学校に行きたいですけど」
「1年の内からそんなん言ってんのかよ。西校なら近くていいじゃん」
「いやいや、西校なんてこの辺じゃ水高の次に偏差値高いじゃないですか。無理ですよ」
「まだ2年だろ、頑張れよ」
始めは恐ろしくて仕方なかった先輩の隣が、気付いたらいつの間にか心地よいものに変わっていた。
でもその時間も、あと少し。
「…四條、スマホ持ってたっけ」
「いえ、私の家は多分…高校決まってからです」
「あー、そうか」
「先輩、もうすぐ卒業式ですね」
「おー」
「風邪とか、気を付けてくださいね」
「おー」
先輩が高校生になったら、当然この時間はもう無くなるのだ。
私は先輩の隣を歩きながら、もう少し家が遠ければいいのにな、と思った。