マイ・ディア・タイガー




 

 私が初めて経験する中学の卒業式は、暖かい春の陽気に包まれて、卒業式に相応しい日だった。

校長先生の話や来賓の話、卒業生の歌、在校生の歌と眠気に誘われる中、卒業証書授与の時間は、一瞬たりとも目を離さなかった。

お世話になったサッカー部の先輩達。
一人一人に心の中で「お世話になりました」と礼を言いながら、目に焼き付けた。


中でも虎頭先輩の番になると、私は、虎頭先輩しか見えなくて、瞬きをする事すら勿体無いように感じた。



校長先生が「虎頭 薫」と先輩の名を呼び、虎頭先輩が低い芯のある声で「はい」と返事をする。

立ち上がる姿、階段を上る姿、証書を受け取る姿、振り返って礼をする姿。


先輩の全てが凛としていて、綺麗で、神聖なものに見えた。


一番お世話になった先輩。
私を変えてくれた先輩。
恐いと思っていたけれど、優しい先輩。



たった1年間。その中で先輩にもらったものは、私には大きくて、特別なものでした。


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