マイ・ディア・タイガー
「先輩方!今までたくさんお世話になりました!3年間お疲れ様でした!ご卒業おめでとうございます!」
グラウンドのサッカーゴールの前で卒業生と在校生の部員が向かい合って、新部長の田中先輩の後に続いて皆で声を合わせて挨拶をし、一本ずつ花を渡した。
今虎頭先輩は、体育館の壇上よりもずっと近くにいて、いつもと同じ学ラン姿なのに、ちゃんと真面目に上のホックまで閉めているのと、左胸に「卒業おめでとう」とリボンが付いているだけで、胸がきゅっとなった。
本当に、先輩は卒業するんだなあと思った。
卒業式が終わると同時に午前で下校していい事になっていたので、部活の挨拶を終えると解散となった。
3年生たちは話したり寄せ書きをしたり、写真を撮っている。
その中心にいる虎頭先輩を見つけて、少し寂しい気持ちになりながら、私は通学路をゆっくり歩き出した。
……そうか。
先輩と帰るこの道は、この前が最後だったのか。
もっと色々な事を話せばよかった。もっと感謝の気持ちを伝えればよかった。
私は部活で、この帰り道で、先輩にたくさんの事を教えてもらった。
鼻の奥にツーンと刺激が起こる。
そんな私を暖かい春の風が、優しく撫でた。
「四條!」
後ろから聞きなれた声が私の名を呼び、嘘だと信じられない気持ちで振り向く。
しかし後ろから走ってきて私の名前を呼んだのは、やっぱり虎頭先輩だった。
学ランはもういつものように第二ボタンまで空いていて、左胸のリボンも萎びていた。