マイ・ディア・タイガー
中学生になったら、本当はのんびり活動している文化系の部に入ろうと思っていたのに。
サッカー部なんて超恐いし、絶対自分には縁がないと思っていたのに、入学して仲良くなった友達にサッカー部のマネージャーを一緒にやろうと誘われ、必死の思いで出来たばかりの友情が壊れるのを恐れ断れず、サッカー部のマネージャーになってしまった次第である。
でも一緒に入った友達はあっさりと辞めてしまい、私も辞めようと思ったがさすがに二人同時に辞めるというのは先輩からの視線が怖くて出来なかった。
タイミングを見て私も辞めようと思っていたが、話を切り出すこともできずに3ヶ月近くが経っていた。
ちなみにマネージャーの先輩達はサボることが多く、最初だけは仕事内容を教えてもらえたが今ではだいたい私が全てを行っている状態なのだ。
そんな私に、虎頭先輩は容赦なく仕事を与えてくる。
こんなこと絶対に口にはできないが、マネージャーの先輩方は余程使えなかったのだろう。
私が黙々と一人で作業をこなしている姿を見て、自分からは絶対にマネージャーに話しかけてこなかった先輩が、私が入部して1ヶ月が過ぎた時に自ら話しかけてきたのだ。
「お前、名前なんていうの?」と。
しばらく私は固まった。
いくら話したことはないといえども、入部した時に自己紹介だってしていたし、他の部員はちゃんと『四條』と呼んでくれている。
にも関わらず、先輩は私の名前を認識していなかったのだ。
もしかしたら、同じ部活の仲間とも認めてもらえていなかったのかもしれない。
「四條です…」と小さく返事をする私に、先輩は「ふーん。四條、グラウンドのライン消えてるよ」と言って去って行ったのである。
ラインくらい自分で引き直せと思ったが、虎頭先輩にそんなことは言えず、先輩の言われた通りにした。
それからというもの、先輩は鬼のように私に仕事を与えてくるのだ。