マイ・ディア・タイガー
「学ランのボタン、全部残ってますね。全部取れかけてますけど…」
「あー、第二ボタンとかそういうやつ?俺年の離れた弟いるから、絶対ボタン取られてくんなって母親に言われた。ふざけて無理やり引っ張られるから、死守すんの大変だったわ」
「あはは」
先輩は人気者だから、先輩達も後輩達も皆が先輩のボタンを狙っていたと思う。
でも律儀にお母さんの言う事を聞いてボタンを守る先輩を想像したら、少し可愛くて笑いが溢れた。
「あ、先輩…これ余ってしまったので、よかったらどうぞ」
さっき別れの挨拶の時に、3年生の先輩達に渡したマフィンの入った包みを渡した。何しろ心配性なので、余分に持ってきたのだ。
「ああ、さっき貰ったやつか」
「はい、先輩にはお世話になりましたし…すみません私、卒業祝いとか用意していなくて。あの今300円しか持ってないんですけど、良かったらコンビニとか寄りませんか」
先輩との最後の時間だと思うと変に緊張してしまって、確実に私はテンパっていた。
「何、卒業祝いくれんの?」
「あ、はい!あ、コンビニでアイスとか買いますか」
「いらねー」
「あ、そうですか…」
「卒業祝い、これちょうだい」
「えっ」
何かと思えば、先輩は私の鞄についている歪な形の手作りのお守りを指していた。
夏の大会前に、本当は部員全員の分のお守りを作って渡すというマネージャーっぽい事をしてみたかった。
しかし、自分が結構大雑把でゼッケンやボタン付けは出来てもお守りのように自分で考えて作る細かい手作業が苦手な事と、部員全員の分なんてとてもじゃないけど作れなかった事、他のマネージャーの先輩方を差し置いてでしゃばった真似をして、後で何か言われるのではないかと萎縮してしまった事を考えてしまい、自分の分だけで諦めたのだ。