マイ・ディア・タイガー
「き、気付いてたんですか…」
「そりゃ気付くだろ、それもうサッカーボールじゃなくておにぎりだし」
ひ、酷い。サッカーボール、すごく大変だったのに。多分サッカーボールじゃなければもっと上手くできたと思う。
「こ、こんな失敗したお守り、あげれません」
「なんで?」
「なんでって…」
「それあれば、何でも勝てそうな気がすんだけど」
「何言ってるんですか!普通に夏の大会負けましたよ…」
「…」
「あっすいません!」
地雷を踏んでしまった。
恐る恐る先輩を見る。しかし先輩は特に起こった様子もなかった。
「いいから。くれないの?」
「…災いを呼んでも、知りませんよ」
「ははっ、大丈夫だろ。ずっと四條が持ってたから、四條の念がこもってて何でも跳ね返してくれそうだし」
「何ですか…人を怨霊みたいに…」
「はははっ」
先輩が口を大きく開いて、声を出して笑った。
私は先輩の真顔やしかめっ面に慣れてしまっているので、そんなふうに笑われると思わず調子に乗ってしまう。
「こんなのでよければ、あげます」
「おー。やった。ありがと」
そんな歪な、おにぎりなのかサッカーボールなのかも分からない、「必勝!」と書いてあっても実績はない変なお守り。
虎頭先輩はそれを受け取ると、嬉しそうに優しく笑った。
それこそとても珍しく、私は思わず見惚れた。
先輩は見た目も整っていて性格も強くて芯があるし、いつも格好いいとは思っていた。
けれど正直、今の笑顔が一番好きだと思った。
「ん?」
「あっいえ。何でもないです」
生温い春の風が髪を撫で、私と先輩の間を優しく過ぎていく。
無意識の内に先輩の隣から少し速度を落とし、一歩後ろを歩く。
身長に比例した大きな27センチの靴、学ランの短い袖から伸びた骨ばった手、少し伸びた襟足、まっすぐ前を向いた横顔。
頭2つ分も高い先輩の姿を、私は目に焼き付けていた。