マイ・ディア・タイガー



「四條、田中」

ふと、昨日も聞いた、この低い声で名前を呼ばれた。もう振り向かなくても誰だかわかる。


「虎頭先輩、お疲れ様です」

「トラ先輩!お疲れ様です!」

部活終わりの先輩は、水高サッカー部の黒いジャージを着たままだった。



「今部活帰り?遅くね?」

「さっきまで副部長達と話し合ってて、この時間です」

「あーなるほど。お疲れ」


そのまま3人で歩き出す。

虎頭先輩と田中先輩がサッカーやゲームの話で盛り上がっているのを、私は聞いているだけで楽しかった。


「あー、田中に会うんだったら、頼まれてた参考書持っとけばよかった」

「あ、頼んでたやつですか?すみません。今度先輩の家に取り行きますよ。そうだ、もしよければついでに勉強見てくれませんか」

「あー、いいよ。日曜の午後なら部活ないけど、そっちは?」

「うちも今週は日曜休みなんで大丈夫です」


どうやら、田中先輩は虎頭先輩に勉強を教えてもらうようだ。

いいな、ちょっと羨ましい。でも虎頭先輩に教えて貰うのは、学校の先生よりも怖そう。



「じゃあ四條もどう?」

突然私に振られ、ビクッと体を揺らしてしまった。



「ほら、四條も今勉強躓いてるって言ってたじゃん。先生に質問するのもいいけど、ノートの書き方とか勉強法とか、先輩に教えて貰うのもいい参考になると思うよ」

「で、でもご迷惑では…」

恐る恐る虎頭先輩を見ると、バッチリ目があった。
虎頭先輩は「別にいいよ」と言ってくれた。
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