マイ・ディア・タイガー



「あ、四條さんきゅー。気が効くな」


ドリンクを持っていくと、次期部長候補と言われている二年生の田中先輩が私の手からそれを受け取って音を立てて飲んだ。


「いやーうちの部って顧問も放置してるからゆるくてさあ。うちに入ってくるマネもみんな仕事しないのばっかで、前にトラ先輩がブチ切れたんだよね。その時に女のマネの先輩がめっちゃ泣いちゃって、その子の親とかも出てきちゃってさあ」

「そんな大事に…!?」

「それからトラ先輩達はマネに干渉しなくなって、先輩がそんな感じだから俺たちもマネのこと放っておいたら何も仕事してくれなくてさ。そんな時四條が入ってくれて本当助かってるわけよ」

「でも、虎頭先輩には私ずっと怒られてますけど…」

「いやいや、それだけ期待してるってことじゃん!現にトラ先輩に二回も同じ注意されたことないでしょ?四條はまだ1年なのにどんどん仕事覚えてくれるしペースも速くなってんじゃん」

「いやそれは、また先輩に怒られるのが恐いから気をつけてるだけで…」

「でもトラ先輩も、四條のこと褒めてたよ」

「えっ」

「ちゃんと言うこと聞くしよく働くって」

「……」


田中先輩が最大限オブラートに包んで変換してくれた言葉だろう。

でも虎頭先輩はそんな生易しい言い方はしない。


実際に何と言ったのかは分からないが、『ちゃんと言うこと聞くしよく働く』というようなニュアンスのことを言ったとしても、その言葉には『言えば何でもやってくれる便利な奴』という意味が含まれている筈だ。


本当に苗字の通り、虎のような先輩だ。


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