マイ・ディア・タイガー


 季節は瞬く間に流れ、一つ上の田中先輩達は無事に志望校へ合格し卒業していき、私は最高学年になった。

暖かい空気もいつの間にかじりじりと焼き蒸されるような暑さに変わり、季節は夏になった。


今年は1年生も多く入り、例年以上に活気溢れていた。マネージャーの後輩も2人入部してくれたので、とても助かっている。



「莉々先輩、1年生とボールの空気点検やってきました。今はちょっと早めに休憩入ってもらってます」

「ありがとう波瑠ちゃん。そろそろビブスの洗濯も終わったかな。干してから私達も休憩とろうか」

「はい」


波瑠ちゃんは一見気が強そうに見えるが、入部当初から真面目にマネージャーの役割を果たしてくれている。

自分で言ってしまうが、私は見るからに気弱な外見をしている。その為舐められるのでは、と最初は不安に思っていたが、彼女が真面目に私に接してくれるので、私は先輩としてちゃんと彼女に後輩指導をする事ができたのだと思う。

同性の先輩後輩の間柄に密かに憧れがあったが、自分の気弱な性格上そこまで仲良くなれるのだろうかと思っていた。でも今ではお互い下の名前で呼ぶし(敬称はついているが)、部活以外の込み入った話もよくする。たまに休日にも遊びに出掛ける事もある程、仲が深まった。



「莉々先輩、昨日高校生の人と一緒に帰ってました?」

「えっ。あ、うん」

「あれが噂の虎頭先輩ですか。めっちゃイケメンですね。そりゃモテるだろうなあ」


虎頭先輩の噂は、波瑠ちゃんの耳にも届いているそうだ。

虎頭先輩が卒業して2年。面倒見のいい虎頭先輩は、いまだに中学の後輩にも慕われていてよく話題に上がる。

そして何より…私が1年生の頃怯えていた虎頭先輩の元カノ——木村先輩は、彼女の従姉妹にあたるらしいのだ。関係はそれ程仲が良いとは言えないそうだが。


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