マイ・ディア・タイガー
「遠目に見ただけですけど、先輩達すごくいい雰囲気でしたよ。お似合いです」
「……波瑠ちゃん、ありがとう。でも私と先輩は本当にそういうのじゃないから」
「そうですか?でも本当に、そう見えたんだけどなあ」
「いつも通り、部活と進学の相談して、ビシバシと厳しいお言葉を頂いてただけだよ」
昨日の先輩との会話を思い出しながら、私と先輩の間には何もないのだと、おこがましい事なのだという気持ちを込めて伝える。
昨日は先輩の2年前の成績を聞いて、改めて自分との大きすぎる差に愕然としたものだ。
「あれ。そういえば先輩って、どこ志望なんですか?」
「……西高です…」
「えっすご!頭めっちゃいいじゃないですかー!」
「やめてー、言わないでー!今の私の学力じゃ到底足りないんだよ…」
「まだ6月だし、大丈夫ですよ。頑張ってください」
「ありがとう…」
「でもそうか、西高ですか。確かに水高と近いですもんね」
「えっ。いや、そういうつもりで選んだんじゃないんだよ」
「ええ?そういうつもりって、どういうつもりです?」
「うわ…波瑠ちゃん、恐ろしいな…」
後輩の話の誘導の仕方に思わず冷や汗が流れる。
単純な事で大変恥ずかしいのだが、私が1年生の頃に虎頭先輩と高校の話をした際、ほんの少し西高を勧められただけで、それ以降私の中で西高が目標になってしまったのだ。
別に、虎頭先輩の通う水高が近いからではない。
西高は家からも近いし、偏差値も高いし、雰囲気も良さそう。総合的に見て、西高が良いと思ったわけであって。虎頭先輩絡みの、そんな不純な動機ではない。
ただ、虎頭先輩が勧めてくれたから、何となく頑張ればいけるのでは、と思ってしまっただけである。
当の虎頭先輩は、私が西高を受けると伝えたら「ふーん」と反応は薄かったが。