マイ・ディア・タイガー
夏の大会が終わり、私達3年生はとうとう部活を引退した。
夏休みは夏期講習に追われ、秋になった。
学校は浮き足立っていた夏休み前と打って変わって、どこかピリピリした空気が流れていた。
それは私も同じ事で、夏から秋に変わるとどこか少しずつ不安になっていって、冬になった頃にはもう不安から余裕がなくなっていた。
学校の図書室で下校時間ギリギリまで自習をし、暗くなった道を足早に歩く。寒すぎて雪でも降るのではないだろうか。
何となく怖い気持ちを紛らわすために鞄から音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に当てて再び歩き出す。
すると後ろから肩を叩かれ、心臓が飛び跳ねた。
「ひっ!」
「おい四條、俺だよ!」
「……せ、せんぱい」
虎頭先輩と会うのは、4カ月ぶりだった。
私が自習するために学校に残るようになってから、先輩のオフの日と帰る時間が重なる事はなかった。
「お前、今帰り?」
「は、はい。先輩は部活終わりにしては早いですね」
「今日はたまたま早めに終わったから…つーかお前いつもこの時間なの?」
「はい、最近は、まあ…」
「まじかよ。つーかこんな暗い道音楽聞きながら歩くなよ!あぶねーな」
「す、すいません…」
「送る」
「えっ!そんな、先輩部活帰りなのに…」
「送るっつってんだろ」
「あ、ありがとうございます」
少し見ない間に、先輩の身長はまた伸びたようだ。
久し振りの先輩から放たれる空気に緊張しながら、お言葉に甘えて先輩の隣を歩き出す。
「最近勉強どう?」
「あー…まあ、ぼちぼちです。それより先輩の方は部活どうですか?」
「極めて順調だけど」
「で、ですよねえ」
先輩が不調の時なんてあるのだろうか。聞いた事もないし、想像もできない。