マイ・ディア・タイガー
カンチガイ
春。パリッとした新品のブレザーに袖を通し、通っていた中学を通り過ぎ、新しい道を歩く。
受験戦争を乗り越え、私は無事に西高に合格した。
部活に入る気はなく、小遣い稼ぎに家の通学路の途中にあるコンビニでバイトを始めた。
虎頭先輩は今年が高校サッカー最後の年で、例年以上に忙しそうだ。
高校受験が終わってすぐに、私は念願のiPhoneを手に入れた。卒業式の前日に偶然帰り道に虎頭先輩に遭遇し、「スマホ買ったのか、連絡先教えろよ」とパシリにでもする気なのかほぼ強引な流れでLINEのIDを交換する事になった。
そうして私は虎頭先輩の連絡先を入手したのだが、先輩からの連絡は忙しいからかほとんどない。かと言って私からする勇気もない。
だいたい、先輩が連絡先を交換したのだって特に深い意味はないだろうし、そんな先輩に何を連絡するというのだ。
無理やり考えて作った話題をLINEしたところで、先輩をうざがらせるか既読スルー、いや、既読すらされないまま無視されるに決まってる。
そう思いながら今日も放課後コンビニでレジ打ちをしていると、扉が開いたので「いらっしゃいませー」とそちらを向く。
あ。
「こ、虎頭先輩。お疲れ様です」
「おー、何か久し振り」
部活ジャージ姿で、先輩は迷わず揚げ物と肉まんを選んだ。
時刻は22時近く。もうそんな時間か。
「今日も自主練ですか?」
「うん」
「毎日大変ですね…」
「……もう上がり?」
「あっ、はい22時までです」
「じゃー外でこれ食って待ってるわ」
「……え!」
私の返事も待たずに扉の音楽を鳴らして、先輩は外に出ていった。
先輩から連絡はないが、先輩は部活帰りにこのコンビニによく寄っていくので、会う頻度は高いのだ。でもいつもはもう少し早い時間に来るから、一緒に帰った事はない。