マイ・ディア・タイガー
コンビニの制服を着替えて身だしなみを整え、店長に挨拶して慌てて外に出ると、先輩は縁石の上でスマホを弄っていた。もう揚げ物と肉まんは食べ終えてしまったらしい。
「すみません、お待たせしました」
「よし、帰るか」
先輩が自転車を引いてゆっくりと歩きだす。
相変わらず先輩の隣を歩く度に緊張してしまう。一体いつになったら慣れるのだろうか。
「学校どう?」
「勉強はいきなり難しくて大変ですけど…でも友達もできたし、クラスも仲が良くていい感じです」
「へー」
「先輩は最近はどうですか?」
「あー、新入生で見た事あるやつが何人か…あ、そういえば田中がベンチ入りしたな」
「えっ、田中先輩が?すごい、おめでとうございます」
「レギュラー争いのプレッシャーに押されてるみたいだけど、まあ田中なら大丈夫だろーなあ」
先輩の低い声が、暗い道にぽつりと優しく浮かぶようだ。
私はそれが心地良くてたまらなかった。
先輩は相変わらず家の前まで送ってくれた。
「じゃあ」とだけ言って、自転車に乗って帰っていく。
先輩を知る度に、私の心臓は馬鹿みたいに跳ねる。
それまでは抓られる様な小さな疼きだったのに、今では病気なんじゃないかと心配になる程動悸が激しく、おかしくなっている。