マイ・ディア・タイガー


「いや、違う…と思う」

「えー。好きじゃないのに、水高ってだけであんな反応する?」

「そ、それは…」

「好きじゃないなら何なの」

「えっと…先輩として尊敬してるというか…」

「彼女になりたいとか思わないの?」

「そ、そんなおこがましい!恐れ多くて思えないよ…」

「おこがましいって言ってる時点で、あわよくば付き合いたいって言ってんのと同じだっつーの。一緒にいて心臓がはじきとびそうとか思った事ないの?」

「それはある。あります…」

「じゃあ好きだよ!素直になれよ!」


ナナちゃんの力強さに圧倒されたが、正直私はそれどころじゃなかった。


私、先輩の事が好きなのか。

え、待って。ずっと好きだったのか。言われてみればそう。確かに先輩といる時の私は正常じゃなかったし、常にドキドキしていた。最初は先輩に恐怖心しか持っていなかったから、心臓の動機をずっと勘違いしていたのだろうか。え、どんな馬鹿だ、私は。初恋じゃあるまいし、恥ずかしすぎる。恋愛経験は乏しいけど、好きか好きじゃないかの自覚すらずっとなかったのか…どれだけ鈍感なんだよ、痛すぎる!

恥ずかしい。自覚した今、先輩の顔を想像するだけで心臓から何かが漏れそうだし、先輩に会ったら心臓から何かが飛び出してしまうかもしれない。





その晩、私は先輩の事ばかり考えていた。

練習試合を観に行くことを連絡しようか迷ったが、何と伝えていいのかわからず、先輩とのトーク画面を開いたまま何時間も先輩との過去の思い出に浸っては悶絶する事を繰り返していた。




結局寝たのは深夜3時半。

顔が浮腫んでしまったので、いいのか悪いのかわからないまま死ぬほど冷水に浸して叩いて、目の下のクマにコンシーラーを塗りたくって家を出た。



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