マイ・ディア・タイガー
だから今、そんな先輩に何も返せないでいる私に対しても、絶対辛いはずなのに何も言わないで困った様に笑う先輩に対しても、悲しい。
「…泣くな、四條」
「……先輩の代わりに泣いてるんです」
「隣でそんなに泣かれでたら泣く気にもなんねーよ」
虎頭先輩。
先輩がどんなに毒舌で俺様で横暴でスパルタで厳しくても、私にとって先輩は、本当に尊敬する人で、偉大な先輩です。
初めて会った時から、ずっとそう。
それはこの先もきっと、ずっと変わりません。
「…四條、ここまででいいよ」
ふと、先輩はコンビニから少し歩いただけの住宅街で立ち止まった。
先輩の家は私の家よりまだ先のはずで、私の家にすらまだついていないのだから、先輩の家まではまだ距離がある。
「え、遠慮しないでくださいってば。自転車もないし荷物持ちくらいしかできませんけど、でも少しくらい役に立たせてください」
「いや……俺んち、ここ、だから」
「え?」
先輩の少し後ろに視線を向けると、表札には確かに、「虎頭」とあった。
「あれ、先輩、引っ越されたんですか?」
「…まあ、そんなとこ」
「そうだったんですか。学校も駅も近くていいですね」
「…うん」
そこで先輩との会話が途切れた。
「じゃあ、私はこれで失礼します」
そう言って帰ろうとすると、「薫?」と先輩の名前を呼ぶ声がした。
朗らかで優しそうな女性。きっと先輩のお母さんだろう。
「そちらの子は?」
「あー、中学の部活の後輩の…」
「は、初めまして!四條莉々子といいますっ」
慌てて深々とお辞儀をすると、優しい声で「ああ、あなたが四條さん!」と妙に納得をされた。