マイ・ディア・タイガー



「初めまして、薫の母です〜。四條さん、中学生の頃試合で何度か見かけてて、いつもサポート頑張ってくれてたわねえ!マネージャーの仕事大変だったと思うけど、本当にありがとうね」

「い、いえ…そんな、滅相も無いです」

「わざわざ薫の事送ってくれたの?ちょっと待ってね、車で家まで送るわ」

「え!?そ、そんな、お気持ちだけで…」

「何言ってんの、こんな暗い中女の子一人で帰せないでしょう。遠慮しないで!」


そのまま私は断る隙もなく、虎頭先輩のお母さんに家まで送ってもらう事となった。



虎頭先輩のお母さんはびっくりするくらい話しやすくて、後部座席に先輩も乗っていたけれど、変に畏まらずに済んだ。





「送っていただいてありがとうございました。それじゃあ先輩…また」

「あ、四條」


先輩に別れを告げて車を降りると、後部座席の窓が開いて先輩が顔を出した。




「助かった、ありがとな」


そう言って先輩は、いつかの日のように、優しく笑った。





ずるい。


虎頭先輩はこれを素でやっているから、本当にずるい。


しっかりしてるのに、凛々しい顔立ちをして、実は絶対無自覚天然タラシ。


中学生の頃は、むしろ最近まで、うっかり先輩の無自覚に引っかかりそうになってしまった。

それこそ私は先輩の中で結構特別なのではないかと勘違いしていた。


そりゃあ仮にも部活の後輩だったので、他の関わりのない女子よりは特別かもしれないけれど、大した位置じゃない。


先輩が高校生になって遠い存在なのだと改めて感じさせられて、よく分かった。



それでも先輩は後輩として私の事をよくしてくれる。嫌われてはいないと思う。
だから私も、虎頭先輩が私に話し掛けてくれる限り、尊敬する先輩として身に刻んで接する。

そう決めた。




そう自分に言い聞かせながら、虎頭先輩のお母さんの車が見えなくなるまで見送った。







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