マイ・ディア・タイガー
先輩じゃない
また春がやってきて、私は二年生に進学し、また一歩受験戦争へと近づいた。
虎頭先輩は高校を卒業し、地元から少し離れた、県内の国立大学に進学した。サッカーも、ちゃんと部に入って続けていると聞いて、ほっとした。
先輩は大学近くのアパートを借りて一人暮らしをしているそうだが、大学の部活が休みになると、月に一度くらいの頻度で高校の部活に顔を出しに地元に帰ってきている。
何故知っているのかというと、相変わらずバイト先にもやってくるからだ。
「あ、先輩、こんにちは。今日も高校に顔出したんですか?」
「うん」
「すごいなあ。ほんとサッカー漬けですね」
「四條は最近どうなの」
「私は…まあ、ぼちぼちです」
何だか先輩に近状を話す時はいつもこんな曖昧な言い方をして逃げている気がする。
「進学先は?」
「一応決めてはあります」
そう言うと、先輩は少し驚いてみせた。
「へえ、どこ?」
「あー、一応…S女大です」
「まじか。近いな」
そう。現時点で私の志望校は、虎頭先輩の通う大学と同じ市内にある。
「都内だと、本気で行きたい大学があるわけじゃないならやめろって親があんまりいい顔しなくて。かといって地元には行きたい大学がないし」
「確かに、県内進学だとあの辺になるな」
「先輩の大学に比べたら全然レベル低いですけど、それでも私の場合はアレなんで、内申を上げとかないといけないんです」
「そっか。頑張れよ」
よかった。また俺の近くかよ、とか思われるかと思った。
ちゃんと授業カリキュラムとか将来の就職状況とかも調べて選んだから、そういうのじゃないんです、本当。
そりゃあちょっとは頭を過ぎったけれど、でも。ちゃんと自分の意思で、自分で道を作っていかないと。いつまでも先輩の後を追っているだけじゃ、まずいんです。