Shooting☆Star
ノックの音がして、祐樹は百香と顔を見合わせた。
首を傾げて、百香がドアを開けると、
「百香、やっぱりまだここにいたのか。電話も出ないし。」
そう言ってダイチが事務所に入ってきた。
ソファに座った祐樹に気付いて足を止める。
祐樹は立ち上がって、ダイチの肩を拳で軽く叩いた。
「あんまり泣かすなよ。」
耳元で小さくそう言って、荷物を手に事務所を出て行く。
「モモ、おやすみ。」
呆気に取られたダイチに向かって百香が、これ以上ない程、簡潔に事態を伝える。
「バレちゃった」
なるほど、と、ダイチは思う。
百香に何があったのかはわからないが、よっぽどのことだったのだろう。
しかし百香は、泣き腫らした顔の割には機嫌良さそうにしている。
「あとは誰に?」
「ユウくんだけ。」
祐樹だけなら、まあ、いいか。あいつは口が堅いし 、噂とかも好きじゃない。祐樹は、そもそも他人に興味がなさすぎるのだ。人懐っこさを全面に出して、でも他人を踏み込ませない。
明日、色々ちゃんと話して黙っていたことを謝ろう。あの様子じゃ、かなり怒っているようだし。

「ごめんね、まだ仕事残ってるの。」
百香は申し訳なさそうに時計を見る。
釣られてダイチも壁の時計を見上げた。
「もう、遅いし、諦めたら?」
「だって、ツアー中に他の仕事したくないじゃない?」
「そういうもん?」
「誰かさんのおかげで、仕事増えちゃったからねぇ」
そう言って百香はパソコンに向かう。
ソファーに座って、百香の後ろ姿を眺めながら、ダイチは明日のセットリストを思い浮かべる。
MCは何を喋ろうか、誰にどんな話題を振ろうか、開演までに祐樹の機嫌が直ってるといいけど……

「そうだ、百香。来週のオフ、どこか出かけないか?あのチケット、まだあるだろ?」ダイチの呼びかけに百香は驚きを隠さずに振り返る。
「いいの?本当に!?」
「百香が嫌じゃ無ければ。」
「行きたい!!」
ダイチとデートだ。
二人が付き合い始めてから、毎日顔は合わせても、限られたプライベートは互いの部屋で過ごすばかりで、一緒に出掛けることは殆どなかった。
目立たないように出掛けるのは難しいし、それぞれの仕事もある。グループと言っても6人の仕事はバラバラの事も多く、ダイチと百香のオフが重なることは少ない。
「私、何があっても、今週は乗り越えられそう。」
百香の言葉に、ダイチが笑う。
「何もないのが一番だけどな。」
ふふふ…と、百香もつられて笑って、この日々がずっと続けばいいのに、と思う。
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