Shooting☆Star
マンションの駐車場に車を入れて、百香の大きな鞄を抱えてエントランスへと向かう。
左手で百香の手を引いて、オートロックの解除方法を耳打ちする。
流石に敷地の中までは入って来ないだろう。
念の為、エレベーターのドアが閉まるまで、二人は言葉を交わさなかった。
3階の表示のボタンを押して「もうちょっと高い場所にすれば良かったな……」と独り言ちる。
「ん?何?」
どうしたの?と、振り返る百香はなんだかいつもよりも幼く見える。
ああ、あの時と同じだ。きっと、これが百香の素なんだろう。
「3階だと、ベランダとか部屋の中とか、結構見えるよな…って思って。」
「じゃあ、ベランダ出よう。ドラマとかでよくあるじゃん。窓際で撮られちゃうアレ。」
ヘラヘラと笑う百香の手は少し震えていた。
その震えの理由を祐樹は訊けないまま、エレベーターはすぐに3階へとついた。
エレベーター横の角部屋、久々に来る祐樹の部屋は相変わらずスッキリと片付いていた。
百香に言わせれば、片付いているというよりも、生活感が無いに等しい。
祐樹はリビングに真っ直ぐに向かい、電気を付けるとソファーの横に百香の荷物を置く。
ファスナーの付いた大きなトートバッグは百香の旅行用だった。
ツアーなんかの長期の出張も、国内ならこれで出掛ける。
ラフな着替えとデート用に買ったワンピース、仕事用の服が2組……下着と、化粧品と、パンプスが一足……「この荷物、何泊するつもりだったの?」という祐樹の質問に、百香は2泊と答えた。
開けっぱなしだった部屋のカーテンを半分だけ閉めて、外から見える範囲を狭くする。半分だけ開けているのは、部屋に人がいることをアピールする為だ。
振り返ると百香は部屋の入り口に立ったまま、ぼんやりとこちらを見ていた。
「大丈夫か?」そう声を掛けると、百香は小さな声で「わかんない」と呟く。
「とりあえず風呂、使いなよ。オレ、さっき事務所でシャワー浴びたから。モモがゆっくり使っていいよ。シャンプーとかは男物だから、嫌だったらごめんな。洗面台横の引き出しの一番上がタオルだから、勝手に使って。」
一方的に話かけながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出しプルタブを起こす。
ソファーに座り、缶のまま一口啜って百香を振り返る。
「どうしたんだよ?」
缶をテーブルにおいて立ち上がり、動かない百香の方へと大股で歩み寄る。
百香が小さく一歩後ろに下がるのに気づいた。
そのまま百香の両肩を掴んで、向かい合う。
さっきはちょっと笑ってくれたのにな。
そんなに思い詰めた顔、しないでくれよ。
「モモ。オレ、モモが普通にしててくれなきゃ、オレも普通に出来ない。」
「うん。」
「オレと恋人の振りするの、そんなに嫌?」
「…違う、そうじゃない…」
「じゃあ、オレと二人で同じ空間にいるのが嫌?」
「違う。違くて…ユウくんは、私に振られたのに、なんでずっと優しいの…?」
ずっと言わないつもりだった想いを、ぶつけてしまったことを思い出す。その時、知ってしまったダイチと百香の関係も、そこに自分の入る隙のないことも。
「オレは、好きな人が困ってたら助けたい。正直、モモを諦めたわけじゃないけど。でも、モモには幸せになって欲しいし、笑ってて欲しい。それが自分の隣じゃなくても、モモが本心から幸せなら、それでいい。それに…ダイチのことも。ガキの頃からずっと一緒にやってきたんだ。あいつがどれだけの努力をしてたか、どれだけ俺を信じてくれてるか、知ってる。何があいつを傷つけるのかも。」
「うん。」
百香は俯いたまま、祐樹のつま先をじっと見つめている。
「だから、二人からそれを奪いたくない。」
左手で百香の手を引いて、オートロックの解除方法を耳打ちする。
流石に敷地の中までは入って来ないだろう。
念の為、エレベーターのドアが閉まるまで、二人は言葉を交わさなかった。
3階の表示のボタンを押して「もうちょっと高い場所にすれば良かったな……」と独り言ちる。
「ん?何?」
どうしたの?と、振り返る百香はなんだかいつもよりも幼く見える。
ああ、あの時と同じだ。きっと、これが百香の素なんだろう。
「3階だと、ベランダとか部屋の中とか、結構見えるよな…って思って。」
「じゃあ、ベランダ出よう。ドラマとかでよくあるじゃん。窓際で撮られちゃうアレ。」
ヘラヘラと笑う百香の手は少し震えていた。
その震えの理由を祐樹は訊けないまま、エレベーターはすぐに3階へとついた。
エレベーター横の角部屋、久々に来る祐樹の部屋は相変わらずスッキリと片付いていた。
百香に言わせれば、片付いているというよりも、生活感が無いに等しい。
祐樹はリビングに真っ直ぐに向かい、電気を付けるとソファーの横に百香の荷物を置く。
ファスナーの付いた大きなトートバッグは百香の旅行用だった。
ツアーなんかの長期の出張も、国内ならこれで出掛ける。
ラフな着替えとデート用に買ったワンピース、仕事用の服が2組……下着と、化粧品と、パンプスが一足……「この荷物、何泊するつもりだったの?」という祐樹の質問に、百香は2泊と答えた。
開けっぱなしだった部屋のカーテンを半分だけ閉めて、外から見える範囲を狭くする。半分だけ開けているのは、部屋に人がいることをアピールする為だ。
振り返ると百香は部屋の入り口に立ったまま、ぼんやりとこちらを見ていた。
「大丈夫か?」そう声を掛けると、百香は小さな声で「わかんない」と呟く。
「とりあえず風呂、使いなよ。オレ、さっき事務所でシャワー浴びたから。モモがゆっくり使っていいよ。シャンプーとかは男物だから、嫌だったらごめんな。洗面台横の引き出しの一番上がタオルだから、勝手に使って。」
一方的に話かけながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出しプルタブを起こす。
ソファーに座り、缶のまま一口啜って百香を振り返る。
「どうしたんだよ?」
缶をテーブルにおいて立ち上がり、動かない百香の方へと大股で歩み寄る。
百香が小さく一歩後ろに下がるのに気づいた。
そのまま百香の両肩を掴んで、向かい合う。
さっきはちょっと笑ってくれたのにな。
そんなに思い詰めた顔、しないでくれよ。
「モモ。オレ、モモが普通にしててくれなきゃ、オレも普通に出来ない。」
「うん。」
「オレと恋人の振りするの、そんなに嫌?」
「…違う、そうじゃない…」
「じゃあ、オレと二人で同じ空間にいるのが嫌?」
「違う。違くて…ユウくんは、私に振られたのに、なんでずっと優しいの…?」
ずっと言わないつもりだった想いを、ぶつけてしまったことを思い出す。その時、知ってしまったダイチと百香の関係も、そこに自分の入る隙のないことも。
「オレは、好きな人が困ってたら助けたい。正直、モモを諦めたわけじゃないけど。でも、モモには幸せになって欲しいし、笑ってて欲しい。それが自分の隣じゃなくても、モモが本心から幸せなら、それでいい。それに…ダイチのことも。ガキの頃からずっと一緒にやってきたんだ。あいつがどれだけの努力をしてたか、どれだけ俺を信じてくれてるか、知ってる。何があいつを傷つけるのかも。」
「うん。」
百香は俯いたまま、祐樹のつま先をじっと見つめている。
「だから、二人からそれを奪いたくない。」