Shooting☆Star
肩から手を離すと、百香は顔を上げた。
「わかった。ありがとう。……お風呂借りるね。」
百香は、そう言って荷物から着替えを取り出して脱衣所に向かう。
「あ、そうだ。Tシャツ貸して?ユウくんが気に入ってるなるべく大きめのやつ。」
「着替え、持ってるのに?」
振り返る祐樹に百香は少し呆れた顔をしてみせた。
「やだなぁ、あとでベランダ出るんでしょ。彼シャツとか、ベタだけどそれっぽいじゃん?」
確かにそれっぽいな。
アイドルとマネージャーの恋。作られたスキャンダル。
本当のことは知られちゃいけない。
「なんか、ドラマみたいだな。」
祐樹はTシャツを百香に渡して笑う。
俺が俺を演じる、脚本の無いドラマ。
演技でも好きな人と過ごせること。それが結ばれない恋でも。
脱衣所に向かう百香の後ろ姿を見送って、祐樹はソファーに身を投げるように座り込み、まだ冷たい缶に口を付ける。
「あーーーーー。ビールちょーうめぇーーーー!!」
わざとらしく声に出すと少し気が紛れた。
モモ、大丈夫かな?だいぶ無理してるな。
まあ、そうだよな。いくら付き合いが長くて知らないわけじゃないとはいえ、つい先日、気持ちを告げられて振った男の部屋に、一晩泊まるんだし。
これから、外では恋人ごっこだし。
さっき、オレ、ちょっと危なかったな、と、思う。
仕事の時は穏やかで芯の強い、みんなの母親みたいな百香が、少女みたいな顔をして不安そうに立ち尽くしていた。
事務所で寝落ちした時に、全力で恥ずかしがっていた姿も最高に可愛いと思った。
本当は、今すぐにでも押し倒したい。
百香の素の姿を知る度に、それまで無かった感情が強くなっていく。
今までは、眺めてるだけで充分だったのに。
モモが幸せなら、それでいいと思っていたのに。
演技なんかじゃなく、自分のものにしてしまいたい。
それでも、ダイチと百香を裏切るようなことはしたくない。
矛盾する気持ちがぐるぐると回る。
あ、オレ、もしかして、ダンサーよりも俳優業の方が向いてるんじゃね…?そっちの仕事増やしてもらおうかな…なんて、くだらないことを考えて、邪な感情を心の隅に追いやる。
ビールって、こんなに味しないもんだっけ…?そう思いながら、缶を見つめる。
もともとそんなに弱いわけではないが、今日は余計に、全く酔える気がしない。
< 19 / 77 >

この作品をシェア

pagetop