Shooting☆Star
ドアの開く音が小さくして、振り返ると大きなTシャツをワンピースみたいに着た百香が立っていた。
いつもは1つに束ねている髪は、少し濡れたまま広がって肩に掛かっている。
両手を広げて少し恥ずかしそうに「似合う?」なんてポーズを取る百香に、思わずにやけてしまう。
「似合う似合う。」
「それ、マジで言ってる?」
心にもない肯定は速攻でバレて、食い下がってくる百香に、今度は心からの賛辞を送った。
「似合わないけど、すっげー可愛い。夏休みの子供みたい。」
--あと、エロい。--
そう、心の中だけで素直に付け足して、百香を眺める。
あはは、子供って。と、百香は満足気に笑って「ありがと」と、小さな声で続けた。
「ありがと。今日、ひとりで帰らなくてよかった。」
きっと、不安で潰されてしまうから。
百香の心の声は祐樹にも伝わって、ひとりでいてもここにいても不安なのは変わらないだろうに…と思う。

「まだ居るのかな?」
「朝まで居るんじゃないか?」
二人で静かにベランダに出る。百香は普段飲まないビールの缶を左手に持ち、ちょっと涼みに外に出ました、みたいな顔をしている。
少し離れた路上に車が一台停まっているのが見えた。
人影は3人…交代がいるのかもしれないな…。
さりげなくチェックして、百香の隣に寄り添うように立つ。
百香は無邪気に身を乗り出して、「ねえ、月がお蜜柑みたい!ここ、東京タワーも見えるんだねー!」なんてはしゃいでいる。
なるほど、見上げた空に浮かぶ月は、ゼリーに浮かぶ皮の無い蜜柑のようだった。色濃い空に半分に欠けたオレンジの月。灯りの消えた東京タワー。
危ねえよ。と、百香の身体を抱き寄せると、ふわふわと馴染みのないシャンプーの甘い香りがした。
「タワーなんてモモの部屋からだって見えるだろ?」
「見えないよ。だってうちのアパート、窓開けても隣の壁だもん。」
祐樹は百香の部屋を想像してみる。
きっと、家具はシンプルで女の子らしいものだろう。モモの服や小物の趣味からして、カーテンやベッドリネンはクリームかピンクか花柄。
その華やかで可愛らしい部屋のカーテンを開けると、窓の外は隣のアパートの燻んだ白い壁……。残念。
ふふふと、空気だけで笑う祐樹を、百香は不思議そうに見上げる。
「そろそろいいかな……?ユウくん、そこから見える?」
小声で訊いてくる百香の顔に、自分の顔を近づける。
「うん。カメラ見えてる。部屋、戻ろう。」そう言って、そっとキスをした。
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