Shooting☆Star
届いたよ。
百香は微笑んで、アカウントをプライベートのものに切り替えた。最後の一文にだけ、ハートマークをひとつ付ける。

「今日、会った子。心配しなくても、彼女ならきっと大丈夫。」
圭太にメッセージを返して、枕元の灯りを消す。
真っ暗な部屋で、彼女が友人らしきアカウントに送っていた返信を思い出す。
〈百瀬さん、助けてくれた時に地面に膝をついてて。スカートだって汚れるのに気にせずに手を貸してくれたの。ふつう知らないひと相手にそこまで出来ないよね。すごいひとだと思う。だから祐樹くんも、彼女を好きになったんだと思ったよ。〉
勿体ない言葉だな。そう思う。
“すごいひと”は、きっと、こんなことで一喜一憂しないだろう。
マネージャーの百香は、ファンにとっては鬱陶しい存在だろうと思う。
今日は、拓巳と祐樹が居たから何もなかった。
会場等に一人で出入りする百香に悪意を向ける顔馴染みのファンはそれなりにいる。彼女達にとっては、好きな人と四六時中行動を共にする百香は目障りな障害物でしかない。
それでも、百香に対して敵意を持つ人ばかりではない、ミズホのように好意的に受け止めてくれる相手もいるのだ。
百香はため息をひとつ吐いて、寝返りをうつ。
意見や行動が目立つということは、少数派だからだ。
そういう意味では、ミズホも出待ちをしていた子達も、どちらも少数派だ。
極端な意見に振り回されてはいけない。それは自分が消耗するだけだし。
考えるのをやめよう。
ほとぼりが冷めるまで、なるべくひとりになるのも、やめておこう。

でも、この仕事についた頃よりはずっと、みんなが外を歩きやすくなったな、と思う。その頃と比べて、外に出る時にマスクをする若い人がぐっと増えた。
帽子を被りマスクを着けていれば、電車の中で気付かれることも少なくなる。
S☆Sに限って言えば、人気のピークが過ぎたということもあるが。
それでも、気付かれれば騒ぎになる。
昔は、電車で移動なんて出来なかったなぁ…
そう考えると、今で良かったと思う。
心ないコメントに、ミズホが傷付かないといいな…
ぽつりぽつりと思考が途切れて、百香は眠りに落ちる。
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